タウン情報誌 City かまがや  87号  

連載エッセイ40 気まぐれティータイム ★決着 ★江上真悟 (俳優)

 「決着」という意味を辞書で調べた記憶はないが、この二〇〇八年の夏は僕にとってひとつの大きな「決着」の季節となった。俳優との決着ではない。女性との決着でもない(笑)。それは肉体との決着であった。

 実は僕には生後半年の記憶がある。それはリンゴ箱の様な木箱に入れられていたという記憶である。そしてその木には色あせた黄緑色の紙が貼られていた事も覚えている。その後親に確認したところその記憶は当たっていた。その姿はギブスで固定されていた生後半年の僕だったのである。しかし箱の中の僕はキチンと完治されなかったようだ。

 想えば……幼稚園の勝抜き相撲大会では立て続けに20人あまりを投げ飛ばした。小、中学校の運動会ではリレー選手の花形だった。高校時代の50m走では6秒を切った。飛んだり跳ねたりは人一倍だった。

 やがて時は流れ、ある日の「痛み」がキッカケで「変形性股関節症」であるという事実を知らされた。そしてそれ以来この股関節との付き合いが始まったのだ。俳優業も30年あまりになるが、今まで何とか凌ぎながら乗り越えてきたつもりである。

 そして去年、その痛みは再び襲ってきた。和らぐ事はなく、今年初頭の診断は「末期症状」という結果だった。既に覚悟は決まっていた。手術台に乗せられ手術室へ運ばれる。やがて僕は深い眠りについた。

 「運動会ではいつも先頭でテープを切っていた……。夢中になってサッカーグラウンドを走り回っていた……」。
 
 50年以上頑張ってきてくれたその股関節はとうとう力尽き、人口股関節へと様変わりした。全身麻酔から覚めた時、何故だか分からないが両の眼から涙が伝わっていた。とにかく「終わった」のだ。  二〇〇八年の暑い暑い夏、僕にとって永年の「決着」がついた。但しこの決着は次への始まりである。                       (★都内病室にて★)